娘の美大受験記#9~出願からの受験準備が整いません!~

娘の美大受験

前回の話はこちらから↓

娘の美大受験記#8~爆発から崖っぷちの出願まで~
家庭内で事件が起こり・・・美大の面接の持ち込み作品3点が決まり、出願期間に入るも願書が全然出来上がらない。

多摩美の総合型選抜入試の出願の締め切りが月曜に迫る中、娘の願書はなかなか仕上がらなかった。
大幅修正加筆したものを日曜日に必死に書き上げる。
土曜日は学校があり、下書きしか出来ていない状態だったのだ。
志望動機の1000文字や願書がすべて手書きしないといけないので、一文字でも間違えたら全部書き直しになるのだ。
また、1000文字の原稿用紙は多摩美オリジナルのもので、横書きで一枚500文字なので、普通の原稿用紙を使えず、ひたすらプリントアウトしたものを使う。

日曜日は私は家にいると明日出願の締め切りだというのにまだ書いていると不安でイライラすると思われたため、近所のケーキ屋で友達とお茶しに行くことにした。

実は11/3も別の友達とお茶しに行っていた。
とにかく家にいるとイライラして心の余裕を失くすのだ。
美味しいものを食べ、友達と楽しくおしゃべりして家に帰ると大抵は大丈夫と流せるくらい心が広くなったので、子どもから一旦離れることは大事だと思った。
今さら「なんでこんな時期にこんなことしてるんよ!」と怒鳴ったところで何一つ解決するどころか、悪いようにしかならないのだから。

出願書類がここまですんなり出来なかったのは、学校や画塾を休まずに絵を描き続けながらやっていたこともあると思う。
今考えればそんなこと置いといて、出願書類に専念すべきだったのだろうが、当時は絵を描くことを一日でも休んだら怖い、というぐらい追い詰められていた。

お茶しに行っている間も、仕事帰りにも「菊買ってきてほしい」とか「キウイ買ってきて」とか娘からはラインが入る。
多摩美のテキスタイルは入試で必ず「花と果物」が入るのだ。
さらに一般入試のデッサンでは「手」も入る。

自分で帰りに買って、とか近所の花屋にあるやろ、とか言うこともあったけど、菊は近所の花屋で買ったらまだ咲いていないつぼみだった。これじゃあ描けないし意味ないやん!(笑)となったことも。

モチーフは先生が指定することが多かった。
そんなこんなで、呑気で何でもギリギリの娘は、日曜の夜に志望動機を書き上げると言っており、私からは、

「書類は自分で出しに行くこと。月曜朝に出来てなかったら完成させて、郵便を出してから遅刻して学校へ行くこと。」

そう言い残し後ろ髪惹かれながら翌日の月曜に仕事へ行った。
朝から娘にラインで送る書類に○を付けて、「お父さんと一緒に書類を確認して、必ず簡易書留の速達で出すように」と伝える。

旦那が家で仕事をしているので旦那情報によると、完成した!と思って最後に読み直していたら、誤字が発覚して一枚書き直しになったと。
原稿用紙が足りなくなりセブンで印刷し書き直して一緒に出しに行って来たとのこと。

実は自宅のプリンターが途中から色の調子が悪くなり出力できなくなったのだ。
多摩美の書類は「カラー推奨」で原稿用紙も黄緑色なのだ。
セブンで出した一枚は紙が普通紙だった。
自宅で出していたものは紙はカラー用の厚めの紙だったので、「え!一枚だけ紙が違うことになるやん!!」と焦るも、
旦那は「最後まで必死に書き直した結果やねんから良いやん。」と言う。
まあ確かに。

でも不安要素はぬぐえない。
これが就活ならアウトだと思う。
もう少しでも時間に余裕があれば、と最後まで思わずにいられなかった。

取りあえず、願書は出願最終日の消印ということで何とかギリギリに間に合った。もうここまでで私はへとへとだった。

娘と言えば「最近はまってることがあるねん。」とニコニコしながら珍しく話す。
何かと思えば「学校で果物を腐らせることにハマってるねん。」というのだ。
この子大丈夫か?!と腐らせるなんてもったいない!と言うと

デッサンとか色彩表現で使った果物のモチーフをカッターで半分に切ったやつを、窓側の席やから窓に並べて置いてたら、だんだんカビが生えてきてさぁ。それがめちゃくちゃ綺麗やねん!!

そううっとりと目を輝かせながら語るのである。

特にキウイのカビとかさぁ、紫でめちゃくちゃ綺麗やねんで。

何を言い出すのか、この子大丈夫か?そうか、カビが綺麗やねんや。
ちょっと気持ち悪いな、「でも誰もよく捨てたりしないね」というと

「誰も捨てないからずっと窓辺にあるねん。」と言う。

このふとした話がのちに入試に繋がっていくことになるとはこの時は、夢にも思わなかった
やっぱ変わった子やなぁぐらいにしか思ってなかった。

そして、受験まで10日と押し迫る中、一枚の紙にデッサンと色彩構成をほとんどしていなかった娘にはっぱをかけた。

娘の美大受験記#7~受験対策に翻弄する高3の7月から9月~
志望校が多摩美テキスタイルに決まりホッとするも束の間、11月の総合型選抜入試は相当合格が難しいと高校の先生から言われ…さらに、入試対策にも不安が募り、面接持ち込みの作品3点も3点目が決まらない。不安な日々の中、娘のメンタルもだんだんと崩れてきて。noteにも少し書いたあの事件の直前までの様子。

7話で書いたように、一枚の紙に半分デッサン、半分色彩構成の絵を5時間で描くという入試が総合型選抜なのに、その絵を一向に描かず、一枚にデッサン、一枚に色彩構成と一般入試対策ばかりしていたのだ。

先生に相談して家で描くのでモチーフを選んでもらい、自室に「入室厳禁!」という張り紙をして5時間籠り、入試を再現するように集中して絵を描いた。

結局、びっくりすることに最終的に5枚しか総合型選抜入試の絵を描かずに終わったのだった。

というのも、出願から入試までの間に、滑り止めの京都精華大学の入試もあり本当に時間がなかった。

精華大は得意のデッサンのみでの受験で、出来たと思う!と自信を見せていた。ただ、開始直後に、みんなそのまま描こうとしているようだったので、多摩美入試のように、モチーフのミニ玉ねぎをカッターで半分に割って描こうと半分に切って玉ねぎのにおいを充満させたところ、「カッターは鉛筆を削る以外には使用しないで下さい!」と指摘されたと言う。
この辺りも関西と関東の入試の差というか。
多摩美の入試ではモチーフは割って断面も表現することが重要なポイントなのだ。
精華大では玉ねぎ臭が充満しえらいことになっていたらしい(笑)
モチーフは持ち帰りだったので、その玉ねぎは断面を少し削りうちの味噌汁の具となったのである。

さて、ここである問題が浮上する。
今更だが、デッサンと色彩表現(入試要項に名称を合わせます)をどうやって分けるのか、だ。
娘は初めに線を引いて塗り分け、はみ出したら白で塗る、ぐらいの感覚だったので、真ん中がピシッっと通っていないような絵になっていた。
デッサンから描いて、なるべく早く2時間で仕上げて、出来る限り苦手で時間のかかる色彩表現に時間を回すというのがスタイルだった。

ここで、旦那と私と娘で入試一週間前の土曜日に話し合いが行われる。
真ん中をどうやって綺麗に割るかということについてだ。
旦那は定規をマスキングテープで止めて描いたらどうかと提案していた。
娘は、何もしやんとこのままで大丈夫やろ、とか言っている。
私はマスキングテープみたいなのを貼ったら良いんじゃないかと提案。ネットで調べると「ドラフティングテープ」というマスキングテープの半分の粘着力のテープがあることがわかる。
「紙を固定したり、塗りたくない場所にマスキングをする。」と書いてある。

近所の文房具屋に電話して買いに走る。
だが、家で紙に貼ってみると、これが全然ダメで紙まで一緒に剥がれるのだ。
めちゃくちゃ高かったのに・・・800円ぐらいしたのにと項垂れる私。
娘はもう何もせずにそのままでいくわ!と言う。
一体みんなどうしてるんだろう?
答えはネット上にあるようで全然情報がなかった。
きっと東京の画塾や美術予備校では当たり前すぎて、ブログに書くネタでもないことだったのだろう。

そして、この時、入試の持ち物もチェックしていた。
「画板(カルトン)」など紙を止めて描く台が要らないと書いてある。何なら使用不可と。
ちょっとおかしいな?と思いつつも誰も深く考えていなかった。
精華大の入試では必要なら使用可と書かれているため、もちろんみんな持ち込んでいたのだ。
画板なしにどうやって絵を描くのだろう?小さな疑問は受験当日驚きの結果をもたらすことになる。

これが情報格差というものなのか。
それともちゃんと調べればわかることなのに、学校や画塾任せにしていたことが悪かったのだろうか。それももちろんある。

だが、地方からの多摩美受験というのはこれほどまでに情報がない。
周りがほとんど受けないから、誰も教えてくれないし、参考に出来ないのだ。

入学後、友達になった子にその時のことを話すと「信じられない!!」とすごくびっくりされた、というその入試はもう数日後に迫っていた。