娘の美大受験記#8~爆発から崖っぷちの出願まで~

娘の美大受験

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娘の美大受験記#7~受験対策に翻弄する高3の7月から9月~
志望校が多摩美テキスタイルに決まりホッとするも束の間、11月の総合型選抜入試は相当合格が難しいと高校の先生から言われ…さらに、入試対策にも不安が募り、面接持ち込みの作品3点も3点目が決まらない。不安な日々の中、娘のメンタルもだんだんと崩れてきて。noteにも少し書いたあの事件の直前までの様子。

忘れもしない10月21日。
その事件は起こった。

いつものようにリビングでもスマホばかり見て、話しかけても生返事な娘。
なんでそんなことが起こったのか原因はよく覚えていない。

それぐらい些細な事だったと思う。
だけど、その時は受験を一ヶ月以内に控えており、私も娘も極度の緊張状態にあった。
その時も何か聞いた時に、いつものように生返事とめんどくさいというようなあからさまな態度を取られ、ムカムカ~っと普段抑えていた怒りが爆発した。

私は思わず娘の胸ぐらを掴んだ。
お互い立ち上がった格好になった次の瞬間、娘は私の急所をを思い切り足蹴りしたのだ。

それが見事に命中し、私はその場で倒れ込みの痛さにのたうち回り、急所はみるみるうちに信じられないぐらいに腫れあがった。
ブチ切れた私は泣きながら、痛い痛いと泣き叫んでいたが、娘は素知らぬ顔。
結局、翌日も痛く腫れあがっていたので、折れたなと思い、病院に行くと恥骨を骨折していた。
その日は昼から休日出勤だったが、休む連絡を入れた。

娘に至ってはそのことに何も触れないし、私ももうどうとでもなれ!と色々と考えるのがしんどくなっていた。
でも今から思い返せば、娘も色々と不安や悩みを抱えていたのだと思う。
それを口に出さないので、いい加減な態度ばかりが目に付き、私は勝手にイライラしていたのだ。

なんで元気ないのよ?と聞いたら、元気ない時に元気出さなあかんの?と怒って言われた。
そうだよね。
元気ない時に元気なふりしないで良いのが家族なんだよね。
いつも元気な娘に慣れていたので、夏からだんだんとテンションが下がって口数も減る娘に不安を募らせてイライラしていたのは、私の勝手だったと今ではよくわかる。

 

その少し前ぐらいに、「面接の持ち込み作品3点のうちの1点を『手編みのマフラー』にするのはどう思う?」と聞かれた。
やっときたか!と思った私は、「良いと思うよ。2点油画だし、マフラーって元々テキスタイル受験に向けて作った作品だったんだし。」と言った。

娘は「そうか。じゃあやっぱりマフラーにしよかな。」と。
「先生はどう言ってるの?相談した?」
「先生はマフラーでも良いと思うって言ってた。」

「そうだよね。あれ、結構良いと思うよ。あんなに夢中になってびっくりするぐらい長いの編んでしまったやん。」
「そうやね。」
「100均の糸で編んだのが気になってたんでしょ?」
「そうやねん。それがどうしても嫌やって。」
「でもそんなの関係ないと思うよ。素材なんてこれから大学に入ってからこだわれば良いところで、あのマフラーの価値はそこじゃないと思う。」
「そうかなぁ。」
「そうだよ。あれ編むの楽しかったんでしょ?あんなに夢中になってたの久しぶりに見たもん。」
「うん。あーあ。。。」
「どうしたん?」
「3点目の作品として作ってた色彩構成描いてた時間、もったいなかったなぁと思って。」
「まだ完成してなかった?」
「うん。」

これで持ち込み作品は決まった。
願書には持ち込み作品の名前と作品のサイズや形式(油絵とか)を書かないといけない。
そう、出願時に持ち込み作品を記入するため、そこからは変更出来ないのだ。
まあ、作品自体は出願時に完成していなくても、面接日に完成していたら良いのだが、受験絵画の練習もあるので、正直直前にそんな余裕はない。

そして、ここから受験前の最大の難関「出願」が待ち受けていた。
多摩美術大学の総合型選抜入試 選択Aは、

  • 志願票
  • 履歴書(学歴、発表活動歴、受賞・入選等)
  • 志望理由書(横書きオリジナル原稿用紙1000文字)
  • 誓約書
  • 出身高等学校の調査書
  • 提出物作成自己証明書

これらを所定の宛先をプリントアウトして貼った封筒に入れて郵送しなければならない。
その前に、顔写真をアップロードし、検定料を払うなど、願書の受付をネットで済ませなくてはいけない。
そこまでは初日にPCに向かい、一緒にやった。

後は、願書の書類を何枚かプリントアウトしたので、書いて〇日までに送らないといけないよ、とは言っていた。
先生も志望理由書の添削はすると言っていたので、先生に見せないといけないこともわかっていたはずだ。

出願期間は7日間(2022年は11/1(火)から11/7(月)まで)あるが、そのうち土日祝日が3日間もある。
休日は郵便局の開いている時間も短い。(小さな郵便局は閉まっている)
志望動機出来た?先生に添削してもらった?と聞くと明日してもらうと言う。
さらに、「見せて」と言うと、まだスマホでしか書いていないというのだ。
もうびっくり!やはり詰めが甘い。

もう原稿用紙に書かないと間に合わないんじゃない?と言うと、そうやな、とやっと書き始めた。
しばらくすると、スマホで書いていたのと改行がずれるので、最後が一行あまってしまう!どうしようと頭を抱えている。
適当に最後の方の言葉を変えて最後の行も無事に埋まり、やっと先生に見せると言う。
翌日は11/3で祝日だったので、11/4(金)に先生に見てもらう。
そして見てもらった後は、推敲したらもう出したら良いという。

同時進行で、併願校の京都精華大学の出願もする。こちらの出願期間は11/4まで。
写真を撮りに行くのも全部私から言って、やっと11/2に行っているという始末。本当に全部ギリギリになってしまう。

京都精華大学は芸術学部造形学科の入試で願書も簡単で、受ける教科も選べるが、増やすほど受験料も上がるというシステム。
うちはデッサンが得意だったので、デッサンのみで受験した。
受験料は3万円。

多摩美術大学は受験料35000円。もし、本命の多摩美に落ちて精華のみ受かれば、精華の入学金約30万を払い込むことになる。

願書を早く出した方が良い!と娘にはっぱをかけるも、内容が良くないと意味がないと思いなおし、4日金曜日の夜に先生に見てもらった志望動機を見せてもらう。

そこで、え?っとびっくりした。
内容が全く薄い。上辺だけの志望動機で何も伝わってこない。

先生はこれで良いって言ったの?と聞くと、もう時間ないから、こことここだけは直してみたいなこと言われたと。
確かに、出願期間になってから先生に見せてるし。

これではあかんわ。
もう、思い切って半分ぐらい書き直そう。見て良かった。

そしてその夜。
深夜を回っても二人で一生懸命に志望動機を練った。
志望動機にマフラーを入れた方が良いんじゃない?
それは自分だけの志望動機やん。
染色棟がアジア最大とか、そういうのは誰でも資料見たら書けることじゃない?と。

さらに初めに書かれていた、「私は子どもの頃から絵を描くのが好きで、とか得意で」というのはもっと書くならさらっと書こうよ。
そんな子しか美大受けないやろ、と。

そして志望動機の最大の山場には
「学校の課題で志望校に寄せた作品作りの課題が出た時に、マフラーを編みました。それは材料は全て100均で揃え、リリアンで編んだような簡易的なものでしたが、今まで油画など平面作品を主に作っていた私にはとても面白く、夢中になり気づいたら夜中まで時間を忘れて編み続け、1メートル50センチ編もうと思っていたマフラーは、気づいたら7メートルにもなっていました。」というようなエピソードを入れた。

そう、願書の作品サイズを書く時にマフラーの長さを測ったら、なんと7メートルもあったのだ。
これには本当に驚いたし、家族で大爆笑だった。
でもこれが私は真の志望動機だと思っていた。
だってそれぐらい編むことが面白かったのだから。そしてそれはまさにテキスタイル分野。

どんなに絵を描いていてもここまで熱中したことはなかったと思う。
そのパワー、面白い、止まらない、もっとやりたい!という情熱が、大学でテキスタイルを学びたいということに繋がっていくと確信したのだ。

しかし肝心の願書は結局、出願の締め切りが押し迫る中、まだ出来上がらないのだった。