娘の美大受験記#10~崖っぷち美大入試初日~

娘の美大受験

前回の記事はこちら

娘の美大受験記#9~出願からの受験準備が整いません!~
美大受験の総合型選抜入試の志望動機にてこずりながらも何とか出願最終日の消印をもらい、無事に出願を終える。その中で併願校の受験や、また、本命の入試準備に悪戦苦闘。ドラフティングテープって何?いよいよ入試。

出願からあっという間に多摩美の入試日が近づいた。
テキスタイルの総合型選抜入試は、2日間にわたって行われる。
娘は、選択Aを受験。
選択Bというのが2021年から出来たが、まだ合格者が出ていない未知の入試。(選択Bは、構想表現とプレゼンテーション面接)

1日目(土曜日)

  • 小論文(60分)10:00~11:00
  • デッサンと色彩表現(5時間)12:00~17:00

2日目(日曜日)

  • 面接(作品3点を持ち込み)→1日目に時間を教えてもらえる

という内容だ。
うちは関西在住なので、予め新幹線の大型荷物の座席を予約し金曜日は学校を休み、午後の新幹線で東京入りした。
同行するのは旦那
これは大正解だった。私は自分が不安なので娘に不安を伝染させることを言う恐れが大だが、旦那はおおらかで相手のことを考えて発言出来る。さらに余計なことは一切言わない。
そして、重い荷物も持てるし、絵のアドバイスも出来るし相談にも乗れるので一石二鳥。
さらに東京の取引先にも行けるので一石三鳥ぐらいだ。

事前にしたことのまとめ

  1. F50(50号)の油画作品を入れるバッグをネット購入。当時4000円ぐらい。
    created by Rinker
    ¥4,500 (2024/05/01 23:31:11時点 楽天市場調べ-詳細)
  2. バッグのサイズを測り、JRに電話し、新幹線の大型荷物の持ち込みについて問い合わせる。(実はこの時に学割証で割引きになると教えてもらう)
    大型荷物の席は車両後方にあり、スマートEXでも大型荷物ありにチェックするとその座席を予約出来ることを教えてもらう。
  3. 学校で学割証をもらう(JRなどの電車で100km以上で使用可。特急券3割引き。ただし、スマートEXのネットサイトやアプリの早割りで予約した方が安かったので行きは使用せず、帰りに使用した。)

多摩美受験の宿は、一番近く徒歩15分でむかえる「ラクシオ・イン」一択。
これは以前書いたが、受験することを決めてすぐに予約した。
朝食付きだし、「天然温泉 ロテン・ガーデン」が徒歩3分のことろに併設されていて無料で入れるというおまけ付き。その上一泊5000円ほど。

橋本でホテルをお探しなら。ラクシオインはワンランク上のロードサイド型ビジネスホテルです。
橋本でホテルをお探しなら。ラクシオインはワンランク上のロードサイド型ビジネスホテルです。

さらに、美大受験生の荷物は多い
作品以外に、デッサンの道具、水彩の絵の具や水入れなど絵を描く道具一式必要だ。他にも、娘はなぜかラップを持参していたのをよく覚えている。
試験当日、万が一忘れ物があっても、世界堂という多摩美の中にある画材屋で買えるらしい。娘は、絵の具で足りないかもという不安がある色があり買いに走ったという。こういう話を聞くとドキリとする。

試験前日は、チェックインした後に、ホテル併設の温泉施設でお風呂に入り、中の食事処で夕食を済ませ、早めに就寝、といいたいところだが、旦那と娘はシングルで違う部屋を取っていたので、本当に早く寝たかは謎。

夜20時頃、娘に電話する。
娘からは、自分がこれまで描いたタマテキ対策の色彩表現やデッサンを写真撮って送ってほしいと言われラインで送る。

私がネットで見つけた、昨年や一昨年の予備校などのHPに掲載された合格再現作品や合格体験記(タマビのパンフレットでは合格作品は未公開のため)をスクショして参考に送った。

そして小論文も書き方の要点などのサイトのリンクを送った。

ほとんど今更という感じだが、不安なのでギリギリまでラインで応援メッセージを送り続けた。
娘は、頑張るわ!という感じで元気そうで安心した。

小論文の対策は9月末から高校でやっており、国語の先生に小論文の構成や書き方を添削してもらい、中身は美術の先生にチェックしてもらうというダブルチェックだった。(本当は夏休み明けからした方が良い

そして娘から、受験票のQRコードを読み込んだら、受験人数と倍率が出てた!とラインが入る。

2023年度のテキスタイルは、8人の募集に対し、選択Aが27人選択Bが2人合計29人の志願者だった。3.6倍だという。(※2024年度は募集人数が10人に変更

娘は今年は去年より受験者数が少ないと。去年は36名の受験者で20人合格しているから、20人取るつもりでがんばる!と言っていた。

なぜ8人の募集なのに、20人取っているのかというと、良い人がいれば専願者を積極的に取りたいというのが、学校側の意図なのだ。

29÷20=1.45倍

20人取ってくれるかわからないけど、少なくても昨年は1.8倍だったので、少しほっとする。
いけるかもしれない。十分にチャンスはある

私たちの時代、1994年前後の入試は関西の私が出た芸術短大でも1.5倍とかそのぐらいの倍率だった。
今はまだ入りやすい、関西の京都精華大や大阪芸大は3倍から20倍超えぐらいの倍率で入るのが本当に難しかったのだ。
そう、ちょうど私たちの世代は団塊ジュニア世代で受験者数がめちゃくちゃ多かったのだ。

恐らく当時の多摩美はさらに倍率が高かったと思われる。
それが今では、一番人気のグラフィックでさえ、実質倍率が8.4倍(学校推薦型選抜)なのだった。
これを知った旦那は、それなら今がチャンスかもな、と言っていたのだ。
挑戦する価値はあると。

いよいよ11月の総合型選抜当日。

旦那と一緒に校門まで歩き、そこで別れる。
保護者も敷地内への立ち入りは一切禁止だ。
画材の多いの受験生はカートを引いているらしい。うちの子はリュックと紙袋。(これが一番出し入れしやすいらしい)
2月の一般受験では雪になる日が多く、坂道が多いタマビではカートは滑って大変なようだ。

試験スタート!

10:00~11:00 小論文

問題:自分が最も好きな色の名前(色名)をひとつ挙げ、その色について詳しく説明しなさい。
また、その色が好きな理由を具体的なエピソードを交えて述べなさい。

条件:1.解答語日本語の場合800字以上1000字以内。
2.解答語英語の場合400ワード以上500ワード以内。

多摩美術大学美術学部総合型選抜 生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻[2023年度入学試験参考]専門試験・参考作品 P122より

娘は勉強が苦手なため、小論文も苦手。
文字数を足りるように書けるかが心配と言っていた。
だが、これは頑張って文字数をクリア出来たらしい。
ただ内容はめちゃくちゃだったかもと自信なさげ、でもやるだけのことはしたと。
好きな色は「あお」としたと言う。持ち込み作品の油画2点とも青系なのだ。

11:00~12:00 昼休憩

なんと前日に買った駅弁を持って行ったらしい。
なんぼほどおのぼりさんやねん!とつっこみたくなる。美味しそうと言ったらお父さんが明日食べたら良いやん、と買ってくれたとのこと。賞味期限は大丈夫だったのかとか謎はいっぱいだが、もう済んだことだ。
駅弁を食べた感想は、冷たくて美味しくなかった、とのこと。

12:00~17:00 デッサン・色彩表現


問題
:与えられたモチーフ(みかん・紙箱)をよく観察し、解答用紙の左半分に鉛筆でデッサンしなさい。
右半分には同じモチーフの特徴と美しさを生かして、自由に色彩表現しなさい。

条件:1.用紙は横位置とし、左右を二等分すること。
2.モチーフの扱いは自由です。

注意:1.モチーフの持ち帰りはできません。
2.質問がある場合は手を上げてください。

モチーフ:無農薬みかん 2個 / 紙箱1個

使用紙:クレセントボード#310 / B3

多摩美術大学美術学部総合型選抜 生産デザイン学科 テキスタイルデザイン専攻[2023年度入学試験参考]専門試験・参考作品 P122より

それは開始直後に始まった。
みんなおもむろにラップを出して用紙に巻き始めている
何が起こったのか、直後に察した。
ああ、鉛筆デッサンの粉が付かないように用紙の半分にラップ巻いているのだ

この話を娘から聞いた時、「ラップ持って行ってたやん!」と言ったが、「あれは、前日に絵の具を作って持って行くため」だったそうで、ラップはホテルに置いてきたらしい。

さらにもっともっと驚くべきことが起こる

使用する用紙、娘はいつもは画板にクリップで紙を挟んで描いていたけれど、B3のクレセントボード#310だったのだ。

こんなしっかりした厚いイラストボード

created by Rinker
¥3,465 (2024/05/01 23:31:12時点 楽天市場調べ-詳細)

それで、持ち物に

※カルトン、パネルは不要です。

と書かれていたのだ。

そう、私も娘も全くわかっていなかったのだ。
学校では娘専用の用紙を買ってもらっていたので(関東と関西の入試では紙質が違うとのことで)すっかり安心しきっていたのだ。

そして、当日にカルトン(画板)が要らないってどういうことだろう?と持ち物をチェックする時に話していて、大学にあるのを使うのかな?ぐらいに思っていたのだ。

なんて、なんて基礎的なことが抜け落ちていたんだろう。

でもお金を払って画塾にも通っていたし、高校は美術科だし、先生も専門の講師も沢山いたのに。
誰もクレセントボードを買って練習することを教えてくれなかったようだ。

後日学校で講師の先生にそのことを娘が言うと、「ああ、多摩美はお金持ちだからなぁ」と言われたという。
どういうことかと言えば、入試の指定のクレセントボードは一枚700円もするのだ。
いや、そういうこと言ってるんちゃうねんけど!と先生に突っ込みたくなる。
だけど確かに高い。

さて、クレセントボードで何が困ったのかと言うと、まず余白がないので手で持つところがもろに用紙になる。
さらに画板より薄くて持ちにくいので、デッサンを描く時も用紙を回して描くのが描きにくくて相当苦労しただったようだ。

それでも何とかデッサンを2時間ほどで終わらせ、色彩表現に時間を使い時間以内に描きあげることが出来たという。

本当に崖っぷちの受験だった。
地方受験の情報格差とはそういうことだ。
もちろん、読めばわかることというのも承知だ。
だけど、ラップはどこにも書いてないし、検索しても出てこなかった。

入学後、友達になった子に、この「入試で初めてクレセントボードで描いた」という話をすると、みんな目を丸くし、一様に「信じられない!夏休みからはずっとクレセントボードで描いていた」と言われたとそうだ。

そりゃそうだろう。

そしてさらにまだ続く。

娘がラップに色を作って持って行ったのに対し、周囲はみんな「タッパーに色を作って持って来ていた」のだ。

これは、はじめに講師の先生に教えてもらっていたのだ。
でもなぁなぁになり、そのままどうするのか娘に聞かないまま終わっていた案件だ。(以前書いた)
私は試験が終わって家に帰った時にはじめて持って行ったラップの使い道を知ったのだった。

その夜

娘はデッサンは出来たが、色彩表現が周りが上手すぎてもう絶対落ちた!とかなり落ち込んでいたようだ。
さらに小論文の内容もめちゃくちゃで文字数だけは書けたけど、ともう全体的にもうあかんわ~となっていたのだ。

旦那によると

勉強するの嫌や、嫌や」(2月の入試では国語と英語があるので)と頭を抱えて相当落ち込んでいたらしい。

ここに書いたクレセントボードの件やラップの件やタッパーの件は、この時は聞かず帰ってから詳しく本人から聞いて知ったのだ。

項垂れた娘をなだめ、美味しいお寿司を食べに行き、必死で励ましていた旦那。

「明日の面接でそんな弱気なこと言ったらあかんで。まだあかんて決まったわけちゃうやん。一生懸命力は出し切ったわけやろ?自信持ってそう言わないと。頭切り替えて面接頑張ろう!」と根気良く言い続けたそう。

娘は寿司が美味しくてだいぶ元気になったそう。美味しいものは心を満たす(笑)

娘も次第に落ち着き、確かに持てる力は出し切った、後は面接頑張ろう!と思えてきたようだった。
その日、私は旦那に電話をしてその様子を少し聞き、娘に代わってもらった。

「とにかく入試要項を見返したら、個性的な人を取りたいと繰り返してるから、個性的な人で行きや。〇〇〇(娘の名前)やったら絶対大丈夫やから!面接頑張って!」とだけ伝える。

 

そして、翌日の面接で仰天発言をし、教授たちが目を丸くすることになるのである。